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 中央リニア新幹線実現の為に 
〜技術ではなく、実用の観点から〜


   はしがき
 僕は元々、こういった観点から論文を書こう等とは思っていませんでした。本当は、多くの皆様が指摘されているように技術面から書きたかったのです。
 しかし技術面では、殊に最近は、これと言って目新しい話題も無く、極論をしてしまえば本やインターネットのホームページに掲載されている内容など、小学生でも少し知識のある子なら知っている事ばかりでした。また、中央リニア新幹線計画自体が非常に具体性に乏しく、山梨の実験線では既に通算20万kmを走行しているにも拘わらず、未だにリニアモーターカーが「未来の乗り物」の域を脱しないのは、ここに原因があると思い始めました。
 リニアモーターカーは、電磁石により発生した磁気により浮上して走行、地上で500km/hという超高速を巡航速力とし、中央リニア新幹線が完成すれば東京−大阪間が僅か1時間で結ばれるという、正に「未来の乗り物」です。
 しかし、本当にこれは「未来の乗り物」なのでしょうか?つい先日までは、「未来の乗り物」とは言っても、「21世紀の乗り物」くらいには認識されていたのに、21世紀が到来して早4年。我々はこのまま、「21世紀の乗り物」をいつまでも先へと持ち越して行くのでしょうか?
 日本は今や、「世界の大国」からズルズルと後退し始め、世界からバカにされながら金だけはしっかりふんだくられる、悲運の国に成り下がっています。しかし、これは単なる「外交下手」だからという理由だけではないと思います。H2型ロケットの打ち上げ失敗続きで、日本がした事は何だったでしょう?『宇宙開発費用の削減』だったのです。こんな馬鹿げた話があるでしょうか?失敗したなら、成功させねばならぬと、余計に費用を使わねばならないのではないでしょうか?現に、アメリカはNASAに対し、そういう態度を取っています。日本という国のこんな態度が、この国の世界における地位をも落としているだと思わずにはいられないのです。
 リニアモーターカーの技術は、勿論、世界でも様々な国が、研究に取り組んでいます。しかし、500km/hを遥かに超えた速度で人間を乗せて走ったリニアは、日本にしかありません(現在のギネス記録は、日本のリニアモーターカーMLX-001が山梨実験線で出した581km/h)。これは、日本が、世界に先駆けて「未来」を「現実」のものとする、大いなるチャンスなのです。このチャンスを、国家を挙げて無駄にしようとしているのが、日本という大バカの国家です。もしこのまま日本がこういった態度を取り続ければ、僕は、この先も、短く見積もっても百年間は、日本は二流国に転落したままだと思います。
 仮に中央リニア新幹線を、浮上リニアで建設しようと言うのなら、それははっきり言って、国家の命運を懸けた一大プロジェクトになる事は間違いないでしょう。建設費は8兆円とも言われ、これは現在の国家予算のほぼ1割にも相当します (勿論、国家は少ししか補助せず、大半はJR東海・西日本などが負担するものと思われますが)。しかし、僕はそこまでしてでも、やってみる価値のあるプロジェクトだと考えます。
 これから僕が記す事は、僕の主観によって描かれた「絵空事」かも知れません。読者の方がどう思われるかは、自由です。ただ、もしこの論文を読んで、まだ問題はあるにせよ、浮上リニアは「未来の乗り物」なんかじゃないのだ、と一人でも多くの方に思って頂けたら、僕はもうそれだけで充分満足です。

1.浮上リニアの生い立ちと現在
〜地上で500km/hを出す為に〜


@ 浮上リニアの歴史

 皆さんも、一度や二度はリニアの浮上の仕組みや加減速の仕組みを聞いた事があると思いますので、ここではそういった事は一切省略させて頂きます (この論文の趣旨にも反しますし)。もし興味があれば、超伝導リニア山梨実験線のホームページにアクセスすると、非常に分かり易い説明が得られます。但し、どれもあまり詳しくは書いてありません。

 超伝導浮上によるリニアモーターカーの実験が日本で初めて成功したのは、東京都の国立 (くにたち) にある、鉄道技術研究所です。時に、昭和47年3月の事。新幹線の成功で一躍、世界の鉄道技術の頂点を往く事になった国鉄の「超高速鉄道研究会」が始めた研究でした。これが実は、世界初で初めて、超伝導リニアが電磁誘導浮上走行に成功した瞬間だったのです。この年は日本が鉄道100周年記念に沸き立った年でもあり、10月14日の鉄道記念日には、詰めかけた大勢の人たちの前で、4人乗りの試験車が浮上走行に成功しました。しかし、この時点ではまだ、方向転換をガイドウェイに頼っており、完全非接触走行ではありませんでした。現在のように、車体とガイドウェイが一切触れないで走行出来るようになったのは、その2年後の事でした。

 その後国立の研究所では、旅客用の車体の建造や周辺構造物についても研究がなされ、ついに昭和52年4月、宮崎の日向市近郊に、紺碧の日向灘を臨む「宮崎実験線」が完成しました。当時は、まだ現在程強力な超電導磁石を作る技術が無く、車輌の安定性の観点からガイドウェイは「逆T字型」が採用されました。右図は逆T字型ガイドウェイを模式的に表したものです (車輌デザインはML-500型 (後述) をイメージしました)。ガイドウェイの底面には浮上用コイル、中央に立つ壁の両側に推進用コイルが取り付けられているので、推進力と制動力を車輌の重心近くに発生させる事が出来るからです。こうして実験を開始した宮崎実験線で、無人実験車ML-500 (MLは、Magnetically Levitated、磁気浮上式の略称) は、ついに昭和54年12月、これから先、同じく日本の超伝導リニア山梨実験線の試験車が出す記録に抜かれるまで、20年近くに亘って鉄道による世界最高速度となる517km/hを達成しました。 逆T字型ガイドウェイ

 しかし、これでは見ての通り、人間の乗れるスペースがありません。そこで、少しは強力な超電導磁石の製造が可能になってきたこともあって、昭和55年からガイドウェイが「U字型」に改められました。これが現在、皆さんのよく知っておられる「リニアモーターカー」の原型です。3輌編成のMLU-001(Uは、U字型軌道のU)が、宮崎実験線で、一方に広がる海と、もう一方にビニルハウスの建ち並ぶ長閑な風景の中を駆け抜ける風景は、テレビでもよく取り上げられました。
 そして現在、山梨に、将来的には「中央リニア新幹線」の一部として使われる事を前提に作られた実験線で、大いなる飛躍が達成されました。フランスのTGVが現在でも「鉄軌条」での世界最高速度としてギネスに残っている、時速513km/hを出し(下り坂を使ったり、直線区間を選んで行った実験である為、実用性には乏しく、これ以後こういった実験は行われていない)、日本のリニアが出した517km/hまでもう少しに迫った所で、山梨実験線に新規投入されたMLX-001 (因みにXは、eXperimentから取ったもの) が、581km/hの、鉄道による世界最高速度文句なし一位の記録を打ち立てたのです。これは同時に、日本が高度経済成長期の時代から、研究に研究を重ねてきた「超伝導リニア」の技術が美しく花開いた瞬間でした。
 現在、山梨実験線では、長期耐久試験に入り、実験開始以来の総走行距離は20万kmを超えました。また、一般公開・乗車体験も行われており、数多くの人たちが魔法の絨毯の乗り心地を体験しています。
 因みに、超伝導リニアを電磁波の観点から憂える方がいるかも知れませんが、実は、超伝導リニア車内の磁場は、現在通勤電車の主流になってきている、インバーター制御の電車車内の磁場より小さかったのです (勿論リニアは防磁板により、車載の超電導磁石の磁場が、客室に影響を与えないように遮蔽している為です)。また、軌道外には、ガイドウェイのコンクリート壁のおかげで磁場は殆ど届かず、超伝導リニアの磁場を懸念するくらいならインバーター電車の問題を考えねばならないという、皮肉な結論が出ました。しかし、この事は大きな問題点を浮き彫りにしています。一つは、世界中で騒がれている微弱な振動磁場が人体に及ぼす影響について、日本ではまだ、全くと言っていいほど研究が成されていない事、もう一つは、インバーター電車はその性格上、普通や快速といった種別の列車に使われる事が大半で、特急列車のように別料金を取らない分、製造コストも安く上げなくてはならず、車内への磁場の遮蔽が怠られているという事です。

A 日本という、ダメ国家がしでかしてきた事

 さてここで少し紙幅を頂いて、日本という国家が一体、実用化すれば世界に先駆けた大技術革新となるリニアに、どれ程冷酷な態度を取ってきたかを説明しておきます。
 まず、断言しておきますが、日本は世界史上にも希に見る相当なダメ国家だという事です。確かに、完全非接触浮上式リニアモーターカーの研究を最初に行ったのは日本国有鉄道でしたし、宮崎実験線での大成果は、国鉄の力無しには成し得なかったものです。
 しかし。それは単に、日本国有鉄道が日本最大の力を有する鉄道組織だったからに過ぎないのです。もし、日本がもう15年早く、国鉄解体に踏み切っていれば、全国各地で次々と姿を消していった赤字ローカル線の半分は現在も生き残り、リニアの研究開発も遥かに速い速度で進められ、中央リニア新幹線も、もしかすると既に実現していたかも知れないと思わずにはいられません。
 国鉄が解体されJRが発足した際、鉄道による経常利益は大赤字でした。バブル崩壊にも影響を受けての事でしょうが、庶民の足として活躍する鉄道たるものが、不況の影響でそこまで赤字になるとは、僕は思えません。では、一体何がだめだったのか。それは偏に、この「ダメ国家」が鉄道の主権を握っていたからでした。杜撰な経営管理、キセル乗車し放題、サービスは劣悪、設備投資の意欲ゼロ、挙げればキリがありません。
 しかしJRになって、日本の鉄道はある程度救われました。大赤字だった経営は一転黒字になり、設備投資にも少しは金を掛けるようになってきたのです。
 しかし、時期が遅すぎました。バブルが崩壊し、日本は平成不況の真っ只中。どうしても、国家や地方自治体の後押しを受け、用地確保や補助金を受けないと建設できない鉄道は、もはや新たに活動する事が出来なくなってしまったのです。勿論、日本という国家がもっとハングリー精神に富み、科学技術の進歩を国を挙げて奨励する国ならば、話は別です。しかしご承知の通り、日本国は今言ったのとは、正反対の国なのです…。
 日本という国家がリニアに及ぼしてきた悪影響は枚挙に暇がない程あるのですが、ここでは、特に日本のアホさ加減が如実に露呈した、2つの事件を取り上げます。

 その1. もっと宮崎実験線は活躍出来た!?

 宮崎実験線の功績は、先述の通り目を見張るものがあります。人間を乗せて、400km/hで疾走するリニアには、誰もが一度は「すごい」と感心したでしょう。そして、設計計画速度の500km/hを上回る、517km/hを達成したのも、宮崎実験線の大いなる功績です。しかしこの数字、実はもう少し大きくなっていたかも知れないのです。フランスTGVは513km/hと、僅かあと4km/hまでこの記録に詰め寄りましたが、本当なら、こんな事にはならなかったはずなのです。
 宮崎実験線最初の車輌である、ML-500最後の走行を控えた昭和54年12月のある日、宮崎実験線関係者は、深夜に及んで会議を開き、今までの走行データから、翌日にML-500を、設計上の最高速度を遥か上回る515km/hで走行させる計画を立てました。そして翌日。宮崎実験線の最高責任者も見守る中で行われた走行試験で、ML-500は最後のパワーを振り絞るかのように、会議で検討された515km/hすら上回る、517km/hを出したのでした。関係者はさらに検討を進めた結果、計算上は525km/hまで出す事が可能である事を見込み、これを会議に諮ったのです。ところが。
「ML-500は、時速500km/hを目標として設計され、そう公表している。17km/hもそれを上回ったのだから、もう充分ではないか。」議会はそう決議したのでした。いかにもお役人らしき発言をした最高責任者の判断が結局勝ってしまっい、研究者の必死の説得も空しく、ML-500が再び宮崎実験線のガイドウェイ上を疾走する事は、ありませんでした。
 当時の関係者によれば、525km/hすら小さく見積もった数字で、サイクロンコンバータを念入りに調整すれば、530km/hすら可能だったというのです。517km/hと、この数字との違いはあまりにも大きいものです。世界一である事に、確かに変わりはありません。ですが、このお役人的判断が為されず、ML-500がもう一度で良いから宮崎実験線を走っていれば……もしかすると、20年近くに亘って全ての鉄道のトップに君臨し続けた世界最高時速517km/hは、もう10km/h以上も更新されていたかも知れないのです。

 その2. 山梨実験線は、まだ未完成だった!!!

 計画速度の550km/hも達成し、鉄道では全く未踏の領域であった相対速度1000km/hによるすれ違い実験にも成功、鉄道に新しい風を吹き込んだにも拘わらず、現在は長期耐久試験に入り、殆ど目立った功績を挙げなくなった山梨実験線ですが、一体、今現在の目標は何なのでしょう?
 これが、実はよく分からないのです (笑…い事ではありません!!)。目標としていた20万kmの耐久試験も一通り済んだのに、実用化へ一歩は、全く踏み出す気配すら無いとはどういう事なのでしょう?2002年9月現在では、実験開始以来、最大規模のシステム改良の為、運転を休止していますが (10月28日から、再び実験を再開します)、これも、内容についてはホームページにも何一つ書いておらず、一体如何なる「最大規模のシステムの改良」を行っているのかは全く分かりません。
 何故、山梨実験線が出来た頃には「21世紀初頭には中央リニア新幹線開業の兆し」などと言われていたのに、最近、めっきりそんな話は聞けなくなってしまったのでしょう?
 これには、やはり日本という国家の冷たさが裏に潜んでいました。山梨実験線は、誰が造ったか。実は、殆どJR東海だったのです。運輸省や鉄道総合技術研究所など国家の組織は、実験費への補助は行っているものの、将来、国家の一大事業となるべき中央リニア新幹線の実験線の建設には、何一つ協力しなかったのです。JR東海が建設できたのは、予定していた42.8kmのうち、たった18.4kmでした。しかも、実験開始から6年経った今でも、この距離は全く伸びていません。沿線市町村との交渉も、行われていないようです。
 しかし、JR東海もJR東海です。せっかく自らの手によって新技術が確立されるかも知れないという時なのに、たった42kmの実験線すら造れないとは、こちらにも問題はあるとしか思えません。ただ「周辺田畑が線路によって分割されるのが嫌だ」としか言っていない沿線の市町村への説得が、それほど難しいとは思えません。それに、聞く所によれば、もうJR東海の力は当てにせずに、国家事業として中央リニア新幹線を実現しようという話まで出ているらしいのです。国鉄さえ、苦しい経営の下で研究に研究を重ねてきたリニアの技術を、今、世界で最も実現しやすい位置にいる会社がこの有様では、先は暗いと考えざるを得ません。「もう力を当てにせずに、国家事業でした方が早い」などという、この上ない侮辱を浴びせられても動こうとしないJR東海にも、やはり問題点はあるでしょう。自分たちは、世界で一番最初に、超伝導リニアを現実の乗り物とする義務がある、という自覚くらい、持っていてもらいたいものです。
 ここでは関係のない話ですが、JR東日本が東北新幹線で成功を収めている、新幹線の途中駅での分割・併合(Ex.秋田新幹線と東北新幹線が盛岡駅で切り離されたり、連結されたりするように)を、東海道新幹線でも行おうと言うJR西日本に対し (下り列車なら、東京から博多方面行きの列車を、乗客が減ってしまう新大阪で半分に切り離せたら、という発想に基づく)、未だに消極的な態度を取り続けているのもJR東海の妙な点です。また、JR東日本は電波探知式自動改札システム「Suica」を開発したり、JR西日本も、日本最大の私鉄である近鉄と相互に、主要駅一円で乗り降り自在の「Jスルーカード」を開発して利用者の便宜性を図っているのに、JR東海はグループ二番手の規模を持つにも拘わらず、そういう目立った実績は見られません。
 しかし、もう15年早く国鉄が解体されていたらどうでしょう?不況続きになる前なら、JR各社も、早いうちに国鉄時代の官僚精神から解き放たれ、中央リニア新幹線実現というベンチャーにも、意欲的に参加出来たかも知れないではないですか。
 もしこのまま放置を続ければ、中央リニア新幹線はまだまだ夢の乗り物のままになるでしょう。しかし、その原罪は、他ならぬ、日本という国家にあったのです。

 2.これが鉄道???
〜リニアの軌道とその問題点〜


@ U字型軌道の問題点と、実用への視点

 こうして、日本の超伝導リニアはU字型軌道による実験に成功しました。しかし、問題はこれからです。果たして、東京から大阪までの460kmにこんな軌道を敷設出来るのかという問題点が残る事でしょう。ここでは、U字型軌道と普通鉄道の軌道 (所謂、2本のレールを使った軌道) を比較し、一体U字型軌道にどんな制約が付くのか、或いはメリットは何かなどについて考えます。

 まず、心配なのはカーブです。リニアモーターカーの車体がある程度の長さを持つ以上、U字型軌道の中を通る為には、カーブの半径にも自ずから制約がつきます。しかも、リニアはそこを500km/hという超高速で走らなくてはならないのです。では、実際にどんなカーブが曲がれるのでしょう?
 山梨実験線ではトンネルの中を中心に、全体で2つのカーブが存在しますが、双方の半径は8000mと10000mです。これが非常に緩やかである事は言うまでもないでしょう。普通鉄道なら、半径800mクラスは主要幹線にもザラにありますし、ローカル線に行くと半径300m、なんていうものまで存在します。こう考えると、リニアは何と厳しい制約を受けるのか、と思いたくなりますよね。
 ですが、よく考えてもらいたいのです。超伝導リニアは、ここを一体時速何kmで駆け抜けるのか。実に500km/hを越える超高速です。一般の鉄道では、直線部分でも最高時速は130km/h、半径800mなら70〜80kmには減速しないと走行できません。
 では、新幹線はどうでしょう。新幹線の規格最小半径は1600mであり、新幹線の最高速度は現在500系のぞみが山陽新幹線区間内で出す300km/hです (細かい事を言うと、実際はATSが305km/hで働くように設定されているので、ギリギリの304km/hまで出します)(ATSとは、Automatic Train Stop system、自動列車停止装置の略称) が、この程度のカーブなら、200km/hには速度を落とさなくてはなりません (計算上は204km/hですが、新幹線のATSには200km/hというのが無く (新幹線のATSには、速度の大きな方から順に300、275、240、220、170、120km/hがある)、実は170km/hまで速度を落としています)。そう考えると、500km/h出すリニアが8000mという制約を受けるのは当前であると言えるでしょう。それに、中央リニア新幹線は東京から大阪まで、丹沢山地、南アルプス (赤石山脈)、中央アルプス (木曽山脈)、鈴鹿山脈、生駒山地といったかなりの山岳地帯を横切る訳で、用地獲得に関しては比較的楽な面がある為、この程度の制約はほぼ問題にならないのです。

 ところで、カーブについてはもう一つ問題があります。それは、遠心力です。競輪場やサーキットなどで、曲線部分のコースにバンクと呼ばれる大きな傾斜が付けられているのは、鉄道ファンならずともご存じでしょう。リニアも500km/hという速度で走る以上、この遠心力は無視出来ません。そこで、リニアにもサーキット並みの急なカントを設けようという訳で、何と、8000mという緩やかなカーブに10°ものカント (自動車道路で言うバンクの鉄道用語) を設けています。これは、コンピュータで算出された値のようで、乗っている乗客に最も負担の掛からない角度になっているようです。
 カントを付けると重力が遠心力を減殺してくれるので、側壁にかかる負担も減少します。リニアの場合、完全非接触浮上走行ではありますが、当然浮上しているリニアの重さは軌道が受ける事になります。しかも、U字型ガイドウェイの特質上、遠心力を受けるのは側壁という事になります。だからカントを付けないと、側壁を非常に強固なものにしなくてはなりません。しかし、カントによって側壁の造りも簡略化出来るという訳です。
 ただ、浮上リニアの場合はカーブで軌道そのものにカントを付けなくても、電磁力によって車体だけを強制的に傾けて遠心力を減殺する方法もありますが、これでは乗客の乗り心地は良くても、軌道側壁に掛かる負担は変わりませんから、意味が薄らいでしまいます。それに、カントを付けた方が電磁石の操作も、格段に楽なのです。

A さらなる問題点、ポイント

 さて、鉄道にはもう一つ、カーブ無くしては存在し得ない地点があります。それは、ポイント (転轍機) です。リニアは、側壁に取り付けられた電磁石と、車体の超電導磁石の間に働く電磁力のみによってしか前に進む事は出来ません。リニアに取り付けられた車輪は、車体の重量を支持する役目しか果たさないのです。つまりどんな箇所にも、車輌の進行方向を決める役目を担う事になる側壁が必要です。浮上中なら特に、側壁は車体の左右のバランスを取るという大切な役目も兼任していますから、やはり、一部でも側壁が無い部分は作れません。

 一般鉄道では、右図1のような仕組みにより列車の進行方向を変えています (赤線は可動部分)。しかしこれでは、青で丸を付けた部分に隙間が出来てしまい、低速走行中なら問題はありませんが、高速走行中にここを走ると車体にかなり大きなショックが伝わる事になります。車輪やレールに掛かる負担も無視出来ない大きさです。
 そこで新幹線では、右図2のような「ノーズ可動式」という方式を採用しています。これは少々大がかりな仕掛けですが、ポイントの両端を可動式にし、一般のポイントでは塞げなかった隙間を塞ぎます。この方法なら、直進する時は200km/hを上回る速度で通過しても殆どショックはありません (勿論、曲進時には速度をそれなりに落とさないといけませんが)。皆様ももし新幹線に乗る機会があったなら、ポイント通過時の音を注意して聞いてみて頂きたいのですが、多分、客室の中からはポイント通過の感覚は余程注意しないと分からない程でしょう。ただ、デッキからであれば、普通のレール部分で「コト、コト」という感じだったレールを刻む音が、少し大きく「コトン、コトン」となるのが分かります。
普通ポイントの図ノーズ可動式ポイントの図

 では、浮上リニアではこの「ポイント」をどう解決しているのでしょう?これには、いくつか方式が考案されていますが、最も実用的で、現に山梨実験線でも使用されているのは「トラバーサー方式」というものです。
 traverseとは、登山用語で「山腹を横切るように登る事」。これに由来する、鉄道用語のtraverserは、線路上の列車を、進行方向に対して垂直に移動させる機械の事です。昔はあちこちの操車場で見られたものでしたが、車輌を回転させて方向転換させるターンテーブルと共に、日本中から消えて無くなった為、鉄道ファン以外で御存知の方は少ないでしょう。線路より一段掘り下げられた部分を、車輌一両程度の長さを持った可動部分が動くというものです。
 これをリニアのポイントに応用した訳です。つまりポイント部分の軌道そのものを左右に移動させ、列車の進入方向を変えるというもの。これには、一般鉄道のポイントのような簡単な仕組みでは無理で、6〜8つの部分に分けられたポイント部分の軌道を、それぞれの部分に繋いだ油圧式のアームをコンピューターで複雑に制御して切り替えなくてはなりません。考えてみればお分かりのように、これほど確実に切り替えを行えるポイントは今のところありませんが、かなり高価になる事は否めません。ただ、これに似た方式のポイントは多摩都市モノレールや沖縄都市モノレールなどの跨座式モノレールで既に実用化されており、コンピューターの発達などで実用性が増した事もあって、価格も下がっているものと思われます。

 しかし引き込み線へのポイントなら、リニアは自走して引き込み線に入るのではなく、牽引車によって牽引されて入る為、側壁から推進力を受けなくてもよく、一部の側壁が無いポイントも実用化されています。因みに、リニアは浮上中は完全非接触走行ですが、低速走行時及び停車時は、側壁に案内輪を当て、それによって方向を定めています。

 また、各駅に必要なトラバーサー式ポイントの数も、絶対必要なのは4つですし (中央リニア新幹線は全線複線の計画である為、駅には上下線それぞれについて2つずつポイントが必要だから)、ターミナル駅には、もっと必要になりますが、東京−大阪間を僅か1時間で結ぶ中央リニア新幹線には、ターミナルなど大阪と東京の2箇所にあれば充分です。つまり絶対数としてそれほど必要ではないので、全体から見れば、設備の費用がポイントの為に高く付く、という事態はあり得ないでしょう。

  B U字型軌道周辺構造物の問題点

 さて、これで軌道そのものの問題点はほぼ解決したと言えるでしょう。しかし、軌道に付随するもので、もう少し問題があります。

 先ず、プラットホームが問題です。加速だけでなく、減速も側壁に付いた電磁石からの磁力によって行う浮上リニアは、プラットホームの部分だからといって側壁を取り付けない訳にいきません。そこで、飛行機の乗降タラップにヒントを得て、車輌の各出入口に当たる位置のプラットホームに、車体とプラットホームを隙間無しに繋ぐタラップを装備するのです。このタラップは伸縮式で、車輌がホームに到着してから伸びて車輌に接続され、発車時には縮んで車輌の走行を妨げないようになります。車輌は自動運転により、停車位置もcm単位で管理されており、車輌のドアの位置とプラットホーム側のドアの位置が大きくずれる心配はありません。各出入口は、普段は自動ドアによって閉ざされており、列車が来てタラップが列車に接続されたのを確認した時のみ開くので、誤って軌道上に転落するという事故は、これによってゼロになります。またこの方法のメリットとしては、乗客を強力な超電導磁石の磁場から保護できる事や、500km/hという超高速で通過する列車が巻き起こす強烈な衝撃波からホームにいる人間を守れる事も挙げられます。
 因みに、ホームに自動ドアを設けて列車到着時にしか開けないという方法は、京都近辺なら大阪の大阪トランスポートシステム南港ポートタウン線 (住之江公園・大阪南港付近の臨海地域を走る) や神戸新交通のポートアイランド線・六甲アイランド線 (名の通り、ポートアイランド・六甲アイランドと最寄りの鉄道駅を結ぶ) など、新交通システム各社が実用化していますが、伸縮式タラップはまだ実用化されていません。伸縮式タラップにより、車椅子の方や視覚障害者でも、飛躍的に乗降が便利になります。飛行機の乗降タラップを考えてみれば分かるように、段差や隙間が無いですからね (一部の航空機では段差はあるものもありますが、山梨のMLX-001にはありません)。

 次に、非常事態の時、側壁があっても乗客が車輌の外に脱出できるのかという問題があります。勿論、現在の鉄道にも軌道が側壁に囲まれているものがあります。しかしそれらはどれも、例えば保線員の人が作業中に列車を()ける際、充分列車との間を確保出来るように作られています。つまり、側壁はそれくらい列車から離れているのです。
 しかし、浮上リニアは普通の鉄道と違い、側壁から推力を得る為、側壁との隙間はなるべく小さいのが理想です。無論あまりに狭いと、浮上走行中にほんの少しでも車輌がブレれば側壁や底面に擦れるという事になりますので、山梨実験線では車体がガイドウェイ中央に位置する時、両側の隙間は30cmずつです。とは言っても、超電導磁石は車体の最下部に付いている訳で、左右30cmずつしか隙間がない側壁も、その高さしかありませんから、ちゃんと列車が止まれさえすれば、さほど問題はありません。転覆の危険性についても、両側のそんなに車輌に近い所に側壁があるのですから、ほぼ可能性はありません。
 では何が問題かと言えば、ドアの開閉です。普通鉄道では、ドアは開くと車輌の側面に格納される仕組みになっていますが、あの方法では気密性が充分でないという欠点があります。皆様も、鉄道がトンネルに入った瞬間、耳がツンとした経験があるでしょう。あれは車輌の機密性が十分でなく、トンネルに入った瞬間に生じた微気圧波が車内にまで入り込み、鼓膜の内部と外部に気圧差を生む為で、所謂「耳ツン現象」と呼ばれているものです。
 超伝導リニアは、500km/hという高速走行をしつつトンネルに入ったり出たりするという、急激な圧力変化のある場所を間断なく通ります。速度が新幹線よりもさらに速い為、その何倍も急激な圧力変化が生じます。ですから車体の気密性を高めねば、乗客への不快感はかなりのものになるでしょう。折りたたみ式の扉も同様の理由から、高速走行する超伝導リニアの扉には不適です。では、新幹線はこれをどう克服しているのでしょう?
 新幹線は、内プラグドアという方式を採用しています。プラグドアとは、ドア部分を油圧式のアームで開口部に押しつけて気密性を高めるもので、大型バスなどでも多用されています。尚、大型バスのようにドア部分が外側に開くのが外プラグドア、新幹線のように内側に開いてから車輌側壁に格納されるのが内プラグドアと呼ばれています。どちらも気密性の点ではリニアのような高速であれ問題ないのですが、実はリニアには別の面に於いて、双方不適だったのです。
 まず外プラグドアは、車体のすぐ側に側壁があり、万が一ドアが側壁に接触した状態で停車すればドアが動かなくなるという事になってしまいます。では内プラグドアならどうかと言えば、超伝導リニアでは車体の両端に超電導磁石を積んでおり、それ故車体の両端は、超電導磁石を制御する機器だらけになり、スペースがかなり制約を受けます。しかし、ドアがあるのも両端ですから、そのスペースが厳しい部分に、ドア格納用のスペースをさらに作るとなると、これは無理な話というものです。
 では、どうするのか。これは、航空機に見られるスカイドアという方式によって解決します。スカイドアという名は聞き初めの方もいらっしゃると思いますので一応説明しますが、一言で言うと、上に開くドアです。上方にドアがスライドして開くのです。これなら、たとえ外に障害物があっても開閉出来ますし、ドアが開いた際に格納するスペースも不要です。もし手動で開けなくてはならなくなっても、バランサー、つまりドアの重さを相殺する為の重りを内蔵しているので、女性や子供でも軽々と開ける事が出来ます。それに、500km/h走行時に問題となる車体の平滑度についても、非常に問題のない仕組みです (500km/hという高速では、車体表面の僅かな凹凸すらも空気抵抗を生む原因となる為、極力平滑にしなければならない)。これによって、ドアの問題も解決します。

 という訳で、U字型軌道でも実用性には殆ど問題ない事が分かって頂けたと思います。
 次の章からはもっと実用的な事に的を絞り、特に、現在最も実現の可能性の高い、中央リニア新幹線の問題点を考えていく事にします。


 3.もう一つの東海道新幹線
〜中央リニア新幹線の地理〜


@ 地図で見る中央リニア新幹線と東海道新幹線

 まず、地理的な事象から考えていこうと思います。
 中央リニア新幹線が果たす役割は、単に東京−大阪間を一時間で結ぶ事ではありません。もしかしたら近い将来に起こるかも知れない「東海地震」に備え、東海道という日本最大の物流ルートを全く違った経路で結ぶ、大切な生命線たるべきものなのです。
 1995年1月17日、午前5時46分。マグニチュード7.2、観測史上初の震度7を記録した「阪神・淡路大震災」が、まだ醒めやらぬ神戸周辺の街を襲いました。あの時起こった事は何だったか、よく思い返して下さい。
 鉄道はと言って一番に思い出すのが、宙ぶらりんになった新幹線の線路でしょう。手抜き工事が原因で橋脚が崩れ落ち、レールと枕木だけが落ちずに、宙に浮いた状態になっていた、あの衝撃的な映像。或いは、初電として朝の仕業検査を終えて伊丹駅に待機していた阪急電車が、高架駅の中で転覆しそうになっていた、もし駅の側壁が車輌の重みに耐えきれずに破損していたらと思うと、背筋がぞっとする光景。道路すらあちこちで寸断され、せっかく救援物資を運んできた車が、何十時間も立ち往生しました。いつもは定刻通りに乗客を運ぶはずの鉄道も、やはり軌道の破損で手も足も出ません。船はというと、神戸港最大の機能を有していたポートアイランドや六甲アイランドをはじめとする埋め立て地が液状化現象の為に、地盤が弛んで、普段は何十トンものコンテナを吊り上げるガントリークレーンが全く使えなくなり、大きな荷物は荷揚げ出来なくなりました。一体これには、どういう理由があったのでしょう。

 これは神戸の地図を開いてみると一目瞭然です。神戸の中心地では、僅か南北1.6kmに、北から順に東海道新幹線、神戸市営地下鉄山手線、阪急神戸本線、JR東海道本線、阪神電鉄阪神本線、神戸新交通ポートアイランド線の、計5社6路線もが走っていたのです。これだけ寄り集まっていれば、一発の地震で全滅するのは当然としか言いようがない、というものです。
 これは神戸に限った事ではありません。確かに神戸は、六甲山地と瀬戸内海に挟まれた狭い平野部で東西に開けた街だから、1.6kmというような非常に極端な数値が出ましたが、どこの都市、或いは幹線にしても、狭い範囲に多くの道路・線路が密集しているのです。
 勿論、人々がそれだけその地域に多く住んでいるから、需要が多い為にそうなってしまうのですが、だからと言って放っておくと、阪神大震災の二の舞が、今度はどこで起こるか分かりません。かと言ってまさか市街地から遠く離れた所を通る鉄道を張り巡らすというのも非現実的です。一体、どうすればいいのでしょう。
 ここで、中央リニア新幹線の出番なのです。つまり、通常の鉄道は沿線の住民によって支えられているから、乗客を獲得する為に、人の多く住む場所を縫ってしか走れません。しかしリニアは違うのです。乗客は全て遠距離移動の客です。特に中央リニア新幹線の乗客の大半は、東京−名古屋−大阪の三大都市を相互に行き来する人々になると予想されています。だから、東京・名古屋・大阪の三大都市さえ通過していれば、あとは近くに他の路線の無い山の中を通っていても、何ら影響ないのです。
 中央リニア新幹線のルートは、品川を出てすぐに東海道本線・東海道新幹線と別れ、町田や相模原の辺りを通って丹沢山地に入ります。神奈川県と山梨県の県境を越えると、現在は山梨実験線として使用されている軌道を通過し、甲府の南方約6kmに出ます。ここに新甲府駅 (仮称) が出来る予定で、甲府市内まではJR身延線の普通電車でも10分の道程です。ここからリニアは、身延山地や3000m級の山々が連なる赤石山脈・伊那山地を避ける為に少し北に進路を変え、中央本線に沿う形で赤石山脈の北麓を通ります。そして今度は進路を南に変え、伊那を通って飯田に着きます。さらに行けば、恵那山をぶち抜くトンネルで再び中央本線に近づき、名古屋に達します。ここでは、東海道本線とは全く違った角度から名古屋に接近するので、「別ルート」としての機能は充分に有していると言えるでしょう。名古屋を出ると、やはり東海道と離れ、関ヶ原を通らずに四日市から鈴鹿山地と布引山地の間の峠を通り、伊賀上野・奈良を通って生駒山地を抜け、大阪に達します。大阪へのアプローチもやはり東海道とは違い、「別ルート」の機能を発揮出来ています。
 またリニアは普通鉄道と比べて、ガイドウェイのズレにも強いという利点があります。例えば、山梨実験線での試験の結果、ガイドウェイの繋ぎ目が、実に3cmズレていても、走行への障害は、殆ど無かったのです。勿論、走行速度500km/hでの話です。では、新幹線はどうなのでしょう?新幹線が、300km/h走行する際の基準値は、線路幅1435mmに対して±1.3mm。恐るべき精度です。在来線の130km/h走行をする路線でも、±3mm程度にはしておかなくてはなりませんから、地震が来れば一発で走れなくなるのは分かります。それに比べ、リニアは完全非接触浮上走行を行う為、かなりの許容範囲があるのです。但し、常時はリニアも、新幹線並みかそれ以上の基準で路線の整備がなされていますが、レール交換や砂利の突き固め作業が一切不必要であるだけに、路線の維持費は安くあがるでしょう。
 しかもこれは、単に災害時の救援ルートというだけでなく、第二の東海道を造る事により今までそれほど重要でなかった地域が新たな重要地点となる事で、雇用をはじめとする様々な需要が発生するという二次的な経済効果も期待できるのです。例えば飯田市などは、現在なら名古屋から新幹線と特急を使っても3時間かかっているものが、たったの20分強で行けてしまう。これは非常に大きな事です。特にリニアは鉄道であるが故、空港のように郊外や海の上などに造る必要もなく、市内との連絡便さえきちんとバスや電車でダイヤを組んでおけば、飛行機とは比べものにならない便利さで、バスや自動車、普通鉄道とも比べものにならない早さを実現出来るのです。

A 本当に、現在計画中のルートで大丈夫なのか

 さて、中央リニア新幹線のルートについて説明した所で、皆さんはもしかすると不安感を持たれたかも知れません。それは「そんな山の中を通しても大丈夫なのか」という事が大半だと思います。山の中を通す以上は、大変なトンネル工事や坂道、カーブが出来てしまう事も考えに入れておかなくてはなりません。
 リニアはやはり鉄道である以上、先述の通り、曲線半径については自動車に比べればかなり大きな制約を受けますし、無茶な上り坂や下り坂も造れません。しかし、それはあくまで、一般国道などと比べての事です。高速道路を考えてみると、少し坂道が急だともう「エンジンブレーキ使用」「速度落とせ」の看板が立っていて、暴走車ならともかくとして、まさか普通の車がそんな道を直線と同じ100km/hで走る事は、まず考えられないでしょう。
 しかしリニアは、東京−大阪間を1時間で結ばねばならないという使命があり、いちいち坂道やカーブで加減速している暇はありません。本当にそんな山の中を通して、大丈夫なのでしょうか?
 現在、新幹線も含めたJRで最も急な勾配は、北海道は富良野線の美瑛−美馬牛にある40‰です。以前はJRにも、「峠の釜飯」で有名な横川と避暑地として名高い軽井沢の間に横たわる碓氷峠に、66.7‰というJR最急勾配がありましたが、1997年9月30日、北陸新幹線 (愛称、長野新幹線) の開通と共に104年の歴史に幕を下ろしました。勿論、私鉄を含めると、箱根登山鉄道や大井川鉄道井川線の90‰という急坂も存在しますが、これらの鉄道ではスピードを20km/h近くにまで落としてその勾配に挑んでおり、500km/hで疾走する超伝導リニアとは全くと言っていい程無縁である為、ここでは考えない事にします。
 さて念のために言っておきますが、40‰とは1000m水平方向に進む間に40m垂直方向に登る坂道の事です。富良野線に乗車した体験から言うと、登坂時、僕は実は蒸気機関車牽引の列車に乗っていたのですが、坂道の手前から力行していたにも拘わらず、坂道に差し掛かるなり急激に速度が落ち、本当に上れるのかと不安に思ったくらいです。自動車なら難無い坂道でしょうが、鉄道ではこれでも限界に近いのでした。
 さて、リニアモーターカーの性能は、どのようなものでしょう?これが、実に凄いのです。一般鉄道が坂道に弱い理由は、車輪とレールとの間に働く摩擦力 (粘着力という) が、他の交通手段に比べて非常に小さい事にあります。元々これは鉄道の利点であり、だからこそ少ないエネルギーで大量の物資を移動させる事が出来る訳ですが、他の交通機関なら充分クリア出来る碓氷峠の66.7‰の勾配さえ、鉄道ではその区間専用の補助機関車を碓氷峠を通る全ての列車に連結しなければならない程でした。
 しかしリニアは違います。何と山梨実験線には40‰の勾配が3カ所も存在しますが、リニアはその区間で加減速を難なくこなしているのです。これが、リニアと普通鉄道の大きな違いです。普通鉄道では、車輪とレールの間の、面積的に考えると極めて小さな部分であの巨大な車体全体を加速させ、坂道を上り下りし、また減速させなければなりません。これは実は大変な事で、車輪がスリップする (空転という) 可能性は、他のどの交通機関よりも高いでしょう。しかしリニアはその粘着力が要りません。どこも接地していないので、粘着力そのものを使用しないのですから。だから信州や甲州の、東海道に比べるとかなりの山の中を通しても、リニアなら影響は無いのです。
 また、雨が降ろうが雪が降ろうが一切影響ありません (ただ、あまりに大量に雪が積もるとマズイですが)。天候・気候に左右されにくいのも、中央リニア新幹線には好都合です。普通鉄道は、雨や雪による空転を防ぐ為、東海道新幹線の関ヶ原で毎年冬の恒例行事となっているように、雪が降ると百数十km/hまでの減速を強いられます。しかしリニアは、軌道が雨に濡れようが、雪が少々積もろうが、ガイドウェイが凍り付こうが、平気で500km/hを出す事が出来るのです。無論、ガイドウェイが水没して川のようになっていたり雪が何十cmも積もっていたりして、素人が見ても「そら走れんわな」という状況になっていれば話は別ですが、そうでもならない限り大丈夫なのです。信州南部を通過する為、東海道新幹線の関ヶ原ほどではないにしても、冬にはある程度の雪が積もる事は覚悟しておかなくてはなりませんから、これは非常に好都合と言えるでしょう。
 U字型ガイドウェイを採用している為、車輌のすぐ近くに側壁があるので、強風に強い事も付け加えておきましょう。
 という訳で、現在考えられている、山梨・信南を通るルートくらいなら、リニアの性能を以てすれば問題ないという事が、分かって頂けたでしょう。

B 駅はどこに造るか

 現在のところこれについては、どんな資料を探しても確定的な要素を含んだものは載っていません。というより、まだ完全に未定なのです。この有様では、はっきり言って当分、中央リニア新幹線の実現は難しいでしょう。しかし僕は思うのですが、近くをリニアが通るかも知れない地方自治体は、如何にもありきたりでつまらない観光PRを行うより、リニア駅誘致に金を掛けて「リニアが走れる都市計画」などを標榜させた方が、余程町おこしに効果があると思うのですが……。でも、北陸新幹線の安中榛名駅の二の舞が中央リニア新幹線でも行われてはならないので、心境は複雑なんですがね。因みに北陸新幹線の安中榛名駅のエピソードとは、政治絡みの色濃い話で、北陸新幹線工事着工から開通当初、地元でも「誰がこんな所の駅を利用するのか」と抗議行動まで起こり、マスコミには「熊が出る新幹線の駅」と叩かれました。政治家は得票数を得る為に、何でも自分の土地を有利にしようとしますからね。それが有力政治家の有り難い所でもあるのですが、99.9%までそのやり方が、一般人から見れば「3歳の子供でももう少しマシなやり方をするだろう」と思わずにはいられない程、幼稚で馬鹿げたやり方なんですよね…。
 閑話休題。仕方がないので、ここでは僕が独断の下に、他の新幹線における駅の配置を参考にしつつ、中央リニア新幹線沿線の人口などから予想される駅の配置を考えてみました。
 まず起点ですが、これは恐らく現在の東京駅にはならないと思われます。これはよく言われる話で、僕が考えたものではありません。と言うのは、東京駅は御存知の通り、開業当初でも山手線・東海道本線という二大路線の起点となる駅であった訳ですが、山手線の真ん中を東西に貫く中央線が開通してから中央本線の起点駅ともなり、それから順に総武本線・京葉線・東北本線・東海道新幹線・東北新幹線と、実に8路線の起点駅となり、その度に増築に次ぐ増築を行ったおかげで (余談ですが、現在、東京駅ののりば番号 (所謂「何番線」) は、基本的には西から順に1、2、3…なのですが、10の次に20〜23が割り込んでおり、11〜13は休番で14〜19が続くという、チグハグなものになっています。開業当初は、ちゃんと順番に並んでいたんですよ)、もうこれ以上は、地上部分に空き場所が無くなり、地下さえも元からあった地下鉄に加えて、横須賀線・総武線・京葉線などがひしめき合っていますから、もはやこれ以上、東京駅に負担は掛けられない状態なのです。現在でもかなり迷いやすいあの東京駅が、リニアのせいでさらに迷宮化してしまいます。
 では、どこが「新東京駅」になるかと言えば、これは2003年10月1日に開業した新幹線の品川駅でしょう。この駅は、新幹線東京駅の負担軽減の為に造られたもので、現在はどうあがいても一時間に12本が限度である東海道新幹線の本数を、将来的には20本程度にまで増加させようという使命も帯びた新駅です。ご存じの通り、東京駅は完全な行き止まり構造の駅です。東北・上越・北陸新幹線の東京駅開業で、一見、東京駅で双方の新幹線 (東海道新幹線と東北・上越・北陸新幹線) はつながっているのでは?と思われるかも知れませんが、実はどちらも東京駅で行き止まりになっており、相互乗り入れは出来ないようになっています。だから東海道新幹線で、東京に到着した列車は、全て簡単な車内清掃の後、また反対方向に営業運転するか、大井 (品川の南東約3km) にある車両基地まで回送しなければなりません。
 しかし、その際に、途中まで回送列車は、本線上を走らなければならないのです。これは何を意味するか。つまり、回送列車が営業列車の運行を妨げてしまうのです。ここに、最高2分強の間隔でも運転出来る東海道新幹線が、高々1時間に12本しか設定出来ない最大の理由があります。到着した列車は、すぐには回送出来ません。やはり、乗客全員が降りるにはそれなりの時間が必要ですし、車内で熟睡したままの人がいないかなどを確認したり、乗務員が交代したりという時間も必要です。ところが品川に新幹線の駅を造ると、非常に近い位置に大井車両基地がある為、車輌のやりくりが楽ですし、品川は中間駅なので回送列車は絶対に折り返さねばならないという制約がありません。回送列車は営業列車の邪魔をしなくて済むのです。それに品川駅は昔、大操車場でしたから、用地に関して問題が無いのです。そこで、その品川新駅にリニアの東京駅が造られるという訳です。これには、僕が考えるにもう一つ、「現在の東京が東京の中心から外れてきた」という理由があるのではないでしょうか。新都心の新宿、ウォーターフロントの天王洲アイル、その他、池袋、霞ヶ関、恵比寿、原宿、渋谷といった西の地域にビジネスや首都機能の移行が為され、新たな観光地も多数生まれた結果、東京の中心地へのアクセスは、はっきり言って東京駅からより品川駅からの方が便利良いのです。こういった理由から、ここでは品川に中央リニア新幹線の起点、新東京駅を置きます。
 次の駅ですが、これはJR横浜線・相模線、さらに京王電鉄相模原線の3路線に連絡する、神奈川県の橋本とします。そして、現在山梨実験線の実験センターのある山梨県の新都留 (つる)。ここでは富士急行電鉄と連絡します。因みに駅名に「新」を冠したのは、富士急行に、既に「都留市」という駅がある為です。そして新甲府。ここは、地図で見る限りJR身延線国母 (こくぼ) 駅辺りに造る事になるので、「国母」としても良かったのですが、やはり中央リニア新幹線の駅ですから、この際分かり易く駅名を改めるのも良いだろう、と考えた末の事です。僕は、安易に伝統ある駅名を変更してしまう現在の風潮を嫌っており、特に小郡が新山口に改称された如きは最低の例だと思うのですが、リニアが日本の顔となる鉄道であるだけに、この改称はやむを得ないものでしょう。僕としては、リニアの駅のみを「新甲府」とし、在来線の駅は国母のままとしたかったのですが、利用者の便宜を考えれば、伝統に固執して混乱を招く結果となる事は明らかで、涙をのんで駅名改称としました。
 次は小淵沢 (こぶちざわ)。ここにはJR小海線・中央本線が乗り入れています。それから伊那市、飯田。この2つの駅ではどちらもJR飯田線と連絡します。さらに中央自動車道の如く恵那山をぶち抜き、中津川、多治見、そして名古屋。この3つの駅では、どれも中央本線と接続し、多治見では他にJR太多線と接続します。ここからは関西本線に沿う形で、四日市 (関西本線、近鉄名古屋線・湯の山線などと連絡)、上野市 (近鉄伊賀線と連絡)、奈良 (JR奈良線と連絡)と通り、さらに生駒 (近鉄奈良線・生駒線・東大阪線と連絡) を通って大阪に達します。尚、大阪は、僕の主観では新大阪駅ではなく、大阪駅が中央リニア新幹線の駅になるのではと思います。と言うのは、こちらは東京とは逆で、大阪駅周辺には国鉄時代の「負の遺産」と言われる、操車場跡で未開発の土地が未だにかなり余っているのです。この土地の有効利用にもなるので、現在の大阪駅が適当かと判断しました。
 さて次に、僕が地図で計測した各駅間の距離と、その駅から接続する他の鉄道線名を表にして掲げておきます。ただ、これはあくまで、僕が高校時代の地図帳に書き込んだルート上を大まかに計測したデータですので、正確性には乏しく、あくまで参考としてのものであると考えて下さい。

駅名営業キロ接続する鉄道線名
新東京(品川)0JR・東急
橋本36JR・京王
新都留74富士急行
新甲府109JR身延線
小淵沢143JR
伊那市182JR
飯田221JR
中津川252JR
多治見292JR
名古屋322JR・名鉄・近鉄・名古屋地下鉄
四日市354JR・近鉄
上野市405近鉄
生駒446近鉄
大阪467JR・阪急・阪神・大阪地下鉄


C トンネルや橋梁などについて

 ここでは、構造物として最も金のかかるトンネルや橋梁がどれくらい必要なのか考えてみます。
 まずトンネルですが、東京を出たリニアがまず最初に突き当たるのは丹沢の山々です。リニアの実験線の位置を見る限り、出来るだけ丹沢山地を避けようとはしていますが、それでも5kmのトンネルは必要になります。ここから甲府までは長短かなりの数のトンネルが連続し、一番長いものでは、既に半分程は実験線の為に掘られていますが12km程のものもあります。地図から見る限り、丹沢山地に差し掛かってから甲府盆地に出るまでに必要なトンネルの総延長は、30km以上に達するでしょう。
 甲府盆地は殆どが明かり区間 (つまり、トンネルではない部分) です。あとは小淵沢まで釜無川に沿っていくのでトンネルは必要ありません。しかし小淵沢から伊那までが、二つ目の難関です。ここは南アルプスの北麓ですから標高も1000m以上ある場所を通らねばならず、トンネルも10km超えクラスのが必要になるでしょう。
 しかし、このトンネルを抜けると、飯田までは天竜川に沿って走る為、長大なトンネルは必要ありません。しかし、限りなく直線に近いリニアの軌道を確保するにはそれなりの数のトンネルが必要になります。というのは、地図で見ても、相当にJR飯田線は曲がり曲がっています。これは等高線に沿って、つまり同じ高さの場所を選んで線路を敷いている為ですが、リニアではそんな事は出来ません。ですから天竜川が浸食し、等高線が複雑に入り組んだ所に真っ直ぐなガイドウェイを造るなりに、長さこそ短くて良いのですが数としては多くのトンネルを掘らなくてはならなくなるでしょう。ただ、それほど岩盤の固い所まで掘る必要はないですから、工事としては全く問題ありません。
 しかし飯田を過ぎると、中央リニア新幹線最大の難関、新恵那山トンネルが待ち構えています。「新」と付けたのは、先述の通り、中央自動車道はここを長さ約8.5kmの「恵那山トンネル」で抜けている為で、地図から標高や勾配を考える限りでは、鉄道ならもう少し長い、やはり15km程度のトンネルが必要になるでしょう。これも技術的には何らの困難もありませんが、やはり工費が高く付く事は否めません。
 ですが恵那山さえクリアすれば、もう難関という程の難関は大阪までありません。中津川からは木曽川に沿って走るのですが、ここでは天竜川周辺ほど地形が複雑でなく、リニアでも高架線と短いトンネル数本だけで充分良い軌道を確保出来ます。
 名古屋から四日市までも、伊勢湾の埋め立て地を通るなら用地・地形共に問題ありません。鈴鹿山地越えですが、これも関西本線に沿ったルートを設定すれば、さほど長いトンネルは必要ありません。しかし山地を走る為、やはりトンネルの数は多くなるでしょう。
 上野市を出、奈良に向かう所で、一つ長さ10km程度のトンネルを掘るのが無難です。ここを通る関西本線の線形の悪さ具合は、一度乗れば誰にでも分かるものと思われます。僕は高校時代に幾度も乗った経験がありますが、速度も遅く、これでは自動車に客を取られる訳だと思わずにはいられませんでした。
 さて、奈良を出た辺りで2つのルートが考えられます。一つはJR片町線に沿って、生駒山地の北側を迂回するルート。もう一つは、近鉄奈良線のように生駒山地をぶち抜き、大阪に真っ直ぐ出る方法。僕は色々考えましたが、大阪のベッドタウンとして急速に発展を遂げている生駒に駅を置くのが得策と考え、生駒山地をトンネルでぶち抜くルートを選びました。奈良県北部には京阪奈学研都市と呼ばれる地域があり、ここを通すならJR片町線ルートになるのですが、それほど大学や企業を誘致出来ている訳でもないらしく、芳しい結果は期待出来るか分からないと考えた末の事です。という訳で、長さ約5kmの「新生駒山トンネル」が必要になります。あとは高架で東大阪を抜ければ、大阪は目前です。
 さて470kmの全長の内、今の結果から推測したトンネルの総延長距離は90〜100km。
 勿論、一本のトンネルの長さが短ければ短い程掘削は簡単になりますから、単に比較するのは間違いですが、言うならば青函トンネル2本分です。技術的には問題無いですが、やはり全通時に100kmものトンネルが必要というのは、足枷になると言わざるを得ません。
 では、橋梁の方はどうでしょう?これについては、ちょっと推測すらもできないという状態です。トンネルに関しては大体地形から推測がつきますが、川をどれくらいの数渡るかは、さすがに僕も数える気力がありませんので、高架部分の長さがどれくらいになるのかの見積もりだけを出しておきます。基本的に、トンネル以外は殆ど高架ですから、その長さは300km程度にはなるでしょう。これは、単純に考えれば長いと思われるかも知れませんが、東海道新幹線、東北新幹線、どちらも高架部分は300kmを遥か上回っています。東海道新幹線は盛土部分も多いのですが、トンネルが中央リニア新幹線に比べて少ない為に、同じ程度の数値が出ているのだと思われます。因みに中央リニア新幹線の営業キロが東京−大阪間470kmであるのに対し、東海道新幹線では530km程あるのも一因でしょう。
 しかし、中央リニア新幹線の軌道は先ず間違いなく、世界一高規格なものになるでしょう。最小曲線半径8000mは、今までの鉄道の常識では絶対にあり得ない事だからです。それだけのものを造るのですから、高架区間300kmとトンネル100kmは、山がちで土地の無い日本に於いては致し方ないものなのかも知れません。


 4.中央リニア新幹線 予想ダイヤ
〜如何にして空路に勝つか〜


@ まずは列車の性能から

 いよいよこの論文も最終段階、実際に中央リニア新幹線が走った際に、どのようなダイヤを組めば良いかを考えていきたいと思います。そこでまず必要となるのは列車の性能です。ここでは、一体どれだけの加速度を持つかについて考え、そこから各駅間の所要時間などダイヤを組む上で絶対に必要な事を調べてみる事にします。
 ここでも東海道新幹線を引き合いに出してみます。東海道新幹線の「のぞみ」の加速度は毎秒2.0km/hですが、仮にリニアをこの加速度で加速させると、500km/hに達するのに実に250秒もかかってしまうのです。6分以上もかけて加速していては、駅間距離の平均が35kmほどである中央リニア新幹線では、最高速度の500km/hに達する前に次の駅に停まる為、減速を始めなくてはいけなくなります。これでは宝の持ち腐れです。
 リニアモーターカーの利点として、加減速度を自由に設定出来るという事が挙げられます。普通鉄道では、粘着力が加減速度に付いて来られないと即、車輪が空転してしまいますが、リニアにはそういった事が起こらないからです。加速度はコントロールセンターからサイクロンコンバータに送られる電気信号によってのみ決まり、これは如何様にも変えられます。
 では、ここで問題となるのは人間の方です。人間は一体、どれ程のGに耐える事が出来るのでしょう。以前、熟練した戦闘機パイロットは、背骨と垂直方向に重力の3倍のGがかかっても、何とか大丈夫という話を聞いた事があります。そう考えると人間は、割合加速度に強いのです。
 しかし当たり前の話ですが、一般人が3GなどというGを受ければ直ちに気を失うでしょうし、それでは、万が一列車の中で立っている人間でもいようものなら、列車が動き出すと同時に重力の3倍の加速度で編成の後に向かって引っ張られ、最後尾の車輌の妻板に叩き付けられるという事態が起きます。仮に新幹線と同じ、車体長21m、16輌編成の一番前にいた人が、出発と同時に後ろに向かって重力の3倍の加速度で「落下」し始めたら、編成最後尾の壁に当たる時の速度は102m/s!実に366km/hで激突する事になります。それどころか、一番前の席に座っている人のポケットから鉛筆が一本転げ落ちても、最後尾に座っている人には凶器となって襲いかかってしまいます。これでは、とても「旅客」用になど実用化出来ません。……何だか、柳田理科雄さんの「空想科学読本」ばりになってしまいました。話をまじめに戻します。
 山梨実験線では無人走行時、この加速度を毎秒10km/hにしていますが、これでも乗客にとっては堪らないでしょう。そこで現在、旅客営業列車では日本一の加速度を誇っている阪神電鉄の新型通勤電車、その名も「ジェットカー」の加速度が、毎秒4.5km/hである事を参考にしたいと思います。通勤電車は当然、立って乗る人も多い訳ですが、リニアは東海道新幹線の「のぞみ」と同じく全席指定になるはずで、全員席に座っている状態が基本ですから、ジェットカーより少し大きい毎秒5.0km/hを加速度としても問題は無いでしょう。ジェットカーはその快速性能から、通勤客にも好評を博しており、また「加速度の大きさのあまり、転んで骨を折った」などという事件も聞いた事がないので、これで大丈夫でしょう。また、リニアは制動に関しても電磁力を以て行うので、やはり加速度は自由に設定できますから、同じ毎秒5.0km/hとします。これなら、500km/hに達するのに掛かる時間は1分40秒であり、加速距離 (500km/hに達するまでに走る距離) は6.95km、減速に必要な距離も同じだから合わせて13.9kmとなります。これを元に、先程の駅間距離の表から各駅間で通過する際・加速または減速だけをする際・加速も減速もする際の三通りに分けて所要時間を算出したのが、次頁の表です。
 ご覧の通り、40kmを実に5分足らずという猛速で駆け抜けるのには、実際に算出してみてビックリしました。因みに、品川と大阪はターミナルである関係上、どうしても少し手前から余裕を持って減速し始める事が必要になるはずであり、余裕の時間として30秒を加算してあります。名古屋駅の両サイドにも、同じ理由から15秒を加算してあります。
 さて「通過」欄の所要時間にご注目です。仮に東京−大阪間をノンストップで行くとすれば、何と、ギリギリではありますが、1時間という非常に大きな壁を切れたのです!!!
 現在、東京の羽田空港と大阪の伊丹空港間の空路の所要時間 (搭乗終了から、着いてドアが開くまで) が約1時間ですから、何と飛行機にさえ大勝してしまいました。というのは、飛行機は空港についてもすぐには外に出られませんし、飛行場は概して都心から離れている為、飛行場までの時間が無視できないからです。もはや中央リニア新幹線が出来れば、東京−大阪間の空路は完全に駆逐されるでしょう。因みに「加速または減速」の欄の走行時間・所要時間などは、名古屋のみ途中停車の時の時間です。名古屋だけ途中停車しても、1時間の壁はさすがに切れないものの、たったの1時間3分で東京から大阪まで走れるのです。
 東海道新幹線で言う「こだま型」の、いわゆる各駅停車でも1時間半しかかかりません。中央リニア新幹線が開通すれば、間違いなく人々の心の中にある大阪−東京の距離感が、遥かに短いものとなってしまう事でしょう。この表を自分の手で作って、かなりの感動を覚えました。尚、この表のアイデア及び形態については、鉄道作家である川島令三氏の著書「新幹線はもっと速くできる」に掲載されていたダイヤグラム・図表が大変参考になりました。と言うよりも、形式までまるっきりパクらせて頂きました。この場を借りて御礼とお詫びを申し上げます (笑)。

中央リニア新幹線駅間別想定所要時間表
駅名駅間営業キロ通過加速or減速加減速
( )内は標準停車時間
品川    
 36------5'30"6'00"
橋本   (0'45")
 384'30"5'30"6'15"
新都留   (0'45")
 354'15"5'00"6'00"
新甲府   (0'45")
 344'15"5'00"5'45"
小淵沢   (0'45")
 394'45"5'30"6'30"
伊那市   (0'45")
 394'45"5'30"6'30"
飯田   (0'45")
 313'45"4'30"5'30"
中津川   (0'45")
 404'45"5'45"6'30"
多治見   (0'45")
 30"4'00"4'45"5'30"
名古屋   (1'15")
 324'00"5'00"5'45"
四日市   (0'45")
 516'15"7'00"7'45"
上野市   (0'45")
 415'00"5'45"6'45"
生駒   (0'45")
 21------4'00"4'30"
大阪    
走行時間467km59'45"1:01'30"1:19'15"
所要時間 59'45"1:02'45"1:28'45"
東京−名古屋 ------41'15"1:00'30"
大阪−名古屋 ------20'15"27'00"


A 編成や定員はどうなるのか

 さて次は、一編成のリニアで一体何人くらいの人間が運べるのかという問題です。
 これにも、あまり参考になる資料はありません。現在、山梨実験線で運転しているMLX-001はあくまでも試験車ですから、中間車は完全に測定機器が占拠しており、両先頭車も定員は30人と46人。一輌46人はまだしも、30人ではとても採算が取れず営業用には使えません。そこで、ここでも東海道新幹線の車両を参考にします。リニアと同じく、先頭の形状が極めてシャープな500系の先頭車は、2&3シート (通路を挟んで左に座席が3席、右に2席ある配置) でシートピッチは880mmであり、座席は53席配列されています。そこで、リニアもMLX-001は2&2シートですが、営業開始時には新幹線と同じ2&3シートも作り、グリーン車だけを2&2シートにすると考えます。また、シートピッチは普通車を880mm、グリーン車を1050mmとします。編成は東海道新幹線と同じ16輌編成を基本とし、グリーン車は3輌連結、また走行時間が非常に短い為、カフェテリアやビュッフェなどの設備は一切持たず、自販機コーナーや列車電話、車椅子スペースなどを設置するとします。こうして考えたのが下のMLJ-001です。月並みですが、JはJapanから取りました。

指・電指・自販G・電
10111213141516
GG指・車・自販指・電

註 : 上段は号車番号、下段が車内設備。
    禁煙車でないのは2・9・15号車のみ。
    車内設備の略記法については次の通り。
    Gはグリーン車、指は普通車指定席、電は列車電話、自販は自販機コーナー、車は車椅子スペース。
    車掌室は9号車と、1号車か16号車。

 という訳で、殆ど500系のぞみと同じ車輌配置です。先頭車の定員が49人、普通車の定員は90人 (但し7号車は70人、11号車は60人)、グリーン車は64人。これで一編成の定員が1230人になります。リニアの定員は950人〜1000人として考えてある本が多かったのですが、こうして実際に編成を組んでみると、もっと定員は多くできるのではという結論に達しました。
 中央リニア新幹線に流れる乗客の算出方法にはいくつかの方法があるようですが、僕は現在の東海道新幹線の「のぞみ」に乗車する人数の2倍が、中央リニア新幹線に流れ込んだと仮定しました。のぞみは現在1時間に平均4〜5本走っており、その輸送力はのぞみの主力である700系新幹線一編成の定員が1300人とすると、1時間当たりの輸送量は約6000人です。つまり、12000人の輸送力をリニアが持っている事を目標に、ダイヤ作りをする事にします。これは一編成が1230人ですから、一時間に10本は直行便が走っていなくてはならない計算です。しかし、もし中央リニア新幹線が開通すれば、間違いなく東京−名古屋−大阪間や、それに近い範囲への移動が現在より遥かに増加する事が見込まれる為、朝夕にはもっと多くの列車を走らせなくてはならないと考えます。

B やっとここまで来た!!! 中央リニア新幹線、想定ダイヤ

 ではこの論文の最終段階、時刻表作りです。勿論、丸一日の分を作っても意味を成しませんから、再過密ダイヤ時、つまり多くのビジネスマンが出張や出勤に利用する、下り線に於ける朝7時からの一時間を例にとって、一体どんなダイヤが組めるのかを考えました。その結果、どうやらこれは現在のようにノンストップの「のぞみ」タイプは良いとして、「ひかり」「こだま」タイプで、停車駅を種別毎に決めていては、効率が悪いという事が分かりました。
 そこで採用したのが、だんだんと新幹線にも浸透してきている、列車によってランダムな停車駅を持たせるというものです。例えば、東海道新幹線を例に取ってみますと、同じ「ひかり」でも、静岡に停車する代わり米原を通過するもの、岐阜羽島には停車するのに小田原を通過するものなど実に多種多様です。僕はここまで複雑な停車形態が必要とまでは考えていなかったのですが、如何に効率の良いダイヤを作れるかと奮闘するうち、停車形態はどんどん多様化してしまいました。四日市と生駒に「みらい」と「きぼう」(後述) が分散して停車する案、飯田止めの列車を作って小淵沢・伊那市に停め、そこから先に行く乗客は後発の列車に乗せてしまうなどは、僕の苦肉の策です。スジ屋さん(ダイヤ作成者の事)の気持ちがよく分かった一時でした。
 列車の愛称名には、かつて東海道で活躍した今は亡き列車の名前を与えました。「平和」「はと」などは、現在の世の中に於いてこそ常に目指さねばならぬ姿とその象徴でもあり、世界初の超伝導リニアには相応しい名前であると考えています。「平和」「はと」は、夢の超特急として東京−大阪・神戸間などを結んだ客車列車です。蒸気機関車や電気機関車に牽かれた車輌にはコンパートメント付きの1等車や、食堂車も連結されていました。また、「ひので」は修学旅行列車として、多くの子供たちの夢を運んだ列車です。但し、「きぼう」と「みらい」は僕の命名です。
 このように何種類もの愛称があれば、愛称毎に停車駅を変える事が出来ます。

 まず「のぞみ」的に、名古屋以外ノンストップで東海道を駆け抜けるのが「平和」です。次に「ひかり」的な列車が何種類かあります。「はと」は、主要駅にまんべんなく停まります。「きぼう」は関東を中心に、「ひので」は東海を中心に、「みらい」は近畿地方を中心に停車し、あとは主要駅のみ停車します。「こだま」的な、いわゆる完全に各駅停車の列車は作っていません。これは、こだまのように各駅に停車すると、リニアの場合、駅間を一つ走ったと思ったら、次の停車駅で追い抜かれるのを待つ時間が一駅間走るのとほぼ同じ時間なのです。これでは待ち時間で余計な時間を食って仕方ありません。全駅で列車の待避を行うと、東京−大阪間が実に2時間以上もかかってしまうので、ちょっとこれではいけません。
 とにかく、完成した時刻表をこちらに掲げておきます。右クリックして「対象をファイルに保存」して下さい。Microsoft Excelにより作成してあります(サイズは25KB)。これを組むのは本当に大変でした。自分が作った想定所用時間表を睨みながら、停車駅を決め、時刻を置いていく。
 書いては消し、書いては消しの連続でした。一晩丸々費やし、何とか完成に漕ぎ着けはしたものの、そのダイヤさえも実は間違いだらけであった事が後日になって発覚し、作り直さざるを得なくなったのです。僕にとって、自分でダイヤグラムを組むのはこれが初めてであり、初めは全くの手探りから始め、何とかここまで辿り着きました。これだけ努力して完成した時刻表ですから、本当に愛着があるものです。必ずや近い将来に、こんな列車が東海道を疾駆する日が来る事を、信じずにはいられません。


  あとがき

 結局、期待していた「超電導磁石が乗客や環境に及ぼす影響」については、何一つ参考になるものを得る事が出来ませんでした。僕が当たった資料はどれも、地球磁場と比較したり、その他の人造磁場と比較したりはしていましたが、10ミリガウス以下の振動磁場が、人体に影響を及ぼすのではという視点に立ってリニアの磁場を検討している資料が全く無かったのです。これについては、非常に残念でした。
 しかし、自分でダイヤを組むのはまたやってみたい事の一つです。これは川島令三氏の著書にはよく登場するのですが、全く路線も駅の位置も列車の性能も自分で定めなくてはならなかったのが、逆に厳しかったです。
 ともかく、この論文で僕が目標としていた「リニアはすぐにでも実用化出来る」という事だけは、皆さんに伝えられた事と思います。勿論、それを絵空事と思われるか、現実を甘くしか見つめてないと思われるか、その辺りは読者の方々にお任せします。
 東海道新幹線が標準軌新線 (つまり東海道本線とは違うルートで、且つ線路幅も異なる路線を使用して運行する) として開業しようという事になった時、日本国内では、大きな反対運動も起こりました。その一つに「世界の三バカ論」というものがあります。当時、世界の三バカとは、ピラミッド、万里の長城、それに我が日本の戦艦大和でした。つまり形ばかりで何の役にも立たない物、それが世界の三バカなのです。その末項を、東海道新幹線が取って代わるのではという、実に厳しい論でした。しかし、当時の国鉄関係者の血の滲むような努力により、東海道新幹線は無事に標準軌新線で開通し、東北新幹線、上越新幹線と共に現在の我々には無くてはならぬ大切な財産になっているのです。
 時代は変わりましたが、現在に於いての中央リニア新幹線を取り巻く状況は、正にこの東海道新幹線開業時と同じです。世界の三バカの末項が、東海道新幹線に取って代わられるという事態は起こりませんでした。だからと言って中央リニア新幹線にも同じ事が言えるなどと安直には言えませんが、中央リニア新幹線の開業が大失敗に終わるという事態だけは、今までに述べてきた事を考えると、僕にはあり得ないとしか思えないのです。
 最後に言えるのは、この論文を書くのは本当に楽しかった、という事です。ポケゼミの議題(微弱な振動磁場が人体に与える悪影響について)とは完全に外れてしまいましたが、自分の普段から考えていた事をかなり書いてみたつもりです。尚、この論文に掲載されているデータについては、2004年夏のものを使用しました。データについては正確性に万全を期していますが、万が一誤りと思われる点を発見された方は、ご面倒でもご報告頂ければ幸いです。
 それでは、最後までの御精読、お疲れ様でした。あとは僕が作成した中央リニア新幹線の想定ダイヤを眺めながら、東海道にリニアの走る日を共に夢見ようではありませんか。


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